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ノンフィクション・歴史もの
北朝鮮絶望収容所
: 安 明哲
(アン ミョンチョル)
(KKベストセラーズ)
かつて政治犯収容所で警備隊に属し、中国へ逃亡し、現在韓国に住む作者の
実体験に基づく手記
。
収容所には、思想を更正させる余地のある革命家区域と、収容されれば人間としては扱われない完全統制区域があり、著者の所属は後者。
収監されている政治犯は”党に叛く敵”なので、
人としては扱われない。
劣悪な環境でただ働かされて、死んで、使い捨てられる。肉親が死んでも悼む事も許されない。
何かにつけ警備員に”指摘を受ける”と、それだけで暴力を振るわれ大怪我をし、死ぬこともある。警備員が言う事は、どんな言掛りであろうと政治犯が泣くハメになる。そして政治犯達の為の食料を強奪し、売りさばき私服を肥やす官僚達。
これまで読んだどの本よりも残虐
。また、あまりにも悲し過ぎる内容である。希望も何もない。
収容所の囚人の扱いもさることながら、
”政治犯”とみなされ逮捕・送還される理由が理不尽に過ぎる。
別に現体制に不満を持っていなくても、生活の中で少しミスをしてそれを他人に勝手に”反体制だ”と理由を付けられれば、それだけで本人だけでなく、一族全員が”政治犯”として収監されてしまう。
高度経済成長期以降に生きてきた
日本人なら、誰でも該当しそうな些細な理由である。
具体的にどんな理由で”政治犯”とさせられ、どんな虐待を受けているのか、テレビのニュースでたまに放送されるかの国の映像による想像ではあまりに甘すぎる。平和な中に生きてる自分達はこの本に記されている事実を知るべきだと思う。
ちなみに、この中の「どうした韓真徳!」のエピソードがもっとも印象に残った。
逆説の日本史 : 井沢元彦(小学館文庫)
天皇になろうとした将軍
と同じシリーズである。
”逆説”とあるが、この本の主題は、歴史上の出来事あるいは、人物書評を「なぜ、そうなったか?」という問題提起をしてから理由を考察していくスタイルである。
「歴史を考える上でそんなことは当たり前だろうから、自分たちはすでにそういう(風に文部省に系統だてられた)日本史を学校で勉強してきた」と思う人もいるかもしれないが、実はそうではない。
それは、本書でも度々述べられている(というか、それが本書の執筆意図だと思うが)
日本史学会の「資料至上主義」と「当時の宗教観念の無視・軽視」
に基づいて編まれた日本史だからである。
学校で教える日本史とどこが違うのか、とりあえず第2巻の第1章「聖徳太子」編を読んでもらえば解ると思う。
聖徳太子は一時ノイローゼだった、死後は怨霊として扱われた、実は「聖徳」の意味はあまり尊敬される人間に与えられる名前ではない
、と言ったら、それはSFだと思うだろう。
しかし、資料があるのである。
では、同じ資料を読んでいる学者の方々がなぜ教科書のような人物像を作り上げたか、というと、前出の問題点を孕んでいるからである。
確かに、資料を読み、当時の状況を推察すると、歴史の教科書の説よりも、本書の説の方が筋が通る。
だいたい、当時の実力者である天皇家や藤原氏の命令(影響)で書き残された文献(日本書紀や続日本記)を頑なに信じようとする歴史学者の説(=教科書)はかなりおかしい。当時の権力者が自分の先祖の功績を(嘘でも)悪く言うハズがないのである。
本書は、そういう条件も加味して資料を考察した上で、人物像・業績を検証してあり、より真実味がある。
もちろん、これを読んでいくと、個人的には一部納得できない説も出てきた(アマテラスが神話化された理由とか、桓武天皇の蝦夷侵略の理由とか)が、それは本書の考え方がこちらにも浸透してきたせいかもしれない。こういう考えが出来るようになったことも、本書の楽しみの一つだ。
ちなみに、別に3巻で終わっているわけではない。
忠臣蔵 元禄十五年の反逆 : 井沢元彦(新潮文庫)
「忠臣蔵」はフィクションである。江戸時代の娯楽である。
とはいうものの、これは実際にあった事件を基にして書かれたものである、と一般的には思われている。
では、本当に、吉良のイジメはあったのか? 浅野家の家臣達は入念に時間をかけて討ち入りの準備をしたのか? それに対し、吉良邸では浅野の家臣の動向を探ったりしていたのか?
それを
信憑性の高い史料のみを抽出
し、検証して
本当の忠臣蔵の舞台
「江戸城 松の廊下」〜「四十七士討ち入り」までを解明したのがこの本である。
で、感想はというと、実際の歴史がここまで捻じ曲げられていたとは、恐ろしいものである。
闇からの谺(上・下) 〜北朝鮮の内幕〜 : 崔銀姫
(チェウニ)
・申相玉
(シンサンオク)
(文春文庫)
著者二人は韓国の女優と映画監督であり、夫婦である。
1978年に半年のタイミングのズレで別々に北朝鮮に拉致された二人は、片や5年間軟禁、片や脱走未遂で投獄される。
そして、その後、指導者同士=金正日
(キムジョンイル)
(当時は首領同士=金日成
(キムイルソン)
は存命)から、映画創作を依頼され、国家という巨大スポンサーをバックに映画を作る。
それらの映画は、映画文化の遅れていた北朝鮮で大絶賛されるが、二人は脱出を決意していた。この本は二人の手記であり、ドキュメンタリーなのだが、話の展開が
まるでフィクションの小説のよう
であり、読者を飽きさせない。先の展開が気になり、読み進んでしまう。
そして、この本では”作者が自由主義経済の出身であったこと”が
「北朝鮮絶望収容所」
とは違い、自由主義国内と北朝鮮の生活や文化の違いを記している。また、庶民生活以外にも当時の北朝鮮の支配者層生活も描かれており、金日成や金正日との会話まである。
この作品にも政治犯刑務所の生活が描写されているが、「北朝鮮絶望収容所」の内容を裏付けるようである。
一死、大罪を謝す 〜陸軍大臣阿南准幾〜 : 角田 房子(新潮文庫)
日本陸軍最後の大臣、阿南准幾(あなみ これちか)大将の話。
出生から、陸軍学校への進学、結婚、近衛兵となり、天皇に忠誠を誓い、陸軍学校の校長となる。
ここまでは、途中、二二六事件等があったとはいえ、軍事国家日本の陸軍の中で順当に出世していく半生である。
この後、中国への日本の侵攻、満州国建国を経て、阿南自身も前線へ。
中国での戦いの後は、太平洋戦争に向かい、そして、日本は敗戦へと追い詰められていく。
明らかに勝てない状況で、如何に陸軍を降伏に導くか、誰にも本心を語らず、たった一人で動き、そして、最後の陸軍大臣となる。
第2次大戦のみならず、陸軍内部の人員構成、それぞれの思惑といった詳細までが実録されている一冊。
天皇になろうとした将軍
: 井沢元彦(小学館文庫)
このタイトルの将軍とは義満のことであり、いかにして、天皇になろうとしたか、が書かれている。
で、「どこまで本当なの?」というのが気になるところであるが、文献がしっかり提示してあり、これが、なかなか信憑性が高そうである。
そして、これだけでは「あー、そう、ふ〜ん」で終わるのだが、この計画を阻止するにあたり、他の歴史上の有名人がからんでくる。しかも、この事件は(多少、フィクションだと読者に思われても、)小説のスタイルで書いても良かったのでは? と思うくらい面白い展開を見せる。
少し具体的に触れると、「
何故、一休さんは第101代称光天皇の実兄で、称光天皇には子供も居なかったのに、皇位を継承できなかったか?
」とか、能楽で有名な観阿弥は楠木正成の○○っ子であるとか。
後半の南北朝関連では、
「源氏〜足利家」って、”武家の名門”となってはいるが、実際はダメダメだ
、ということが良く解る。
ま、源氏の嫡流は頼朝から3代で終わってるし、ようやく北条家から政権を奪った足利家(源氏)は、大名を押さえる力の無い幕府だった。”本来の徳川家”も源氏(新田家の家系)ではあるが、(松平)家康は征夷大将軍(=幕府を開く資格がある)になるために、無理やり”徳川家”と縁組しただけだし。
本書で的を得た表現がある。それは「
武士とは暴力団のようなもの
である」というもので、本来の法律「律令」を無視し、勝手に「式目」という法律を作り、縄張りを支配し、ショバ代を巻き上げ、生産活動はしない。で、何も生産できない彼等は、”家柄”とかのプライドで生きるしか無いワケである。で、北条家や徳川家のように優秀な”政治家”を輩出すればいいが、「源氏〜足利家」の系統はダメダメだ、というトコロである。
実は、本書の文面の上では足利尊氏のことについて、それほど厳しくは書いてない。やんわり「優しい男だった」とか、「人間的には好きになれそう」とか書いてあるが、実は本書で著者本人が再三書いているように、「実は書きたい事は様様な事情で書けない」ようである。今回は「現在、研究の進んでいない尊氏を引き続き研究する為には、あまり具体的に批判しては、今後の研究に差し障る」ということのようだ。
その他にもこの作者、「朱子学から言えば」とか、さも自分の言葉ではないようにカモフラージュして、巧みに真理を語っている。
「北朝鮮」とは何だったのか : 関川夏央(新潮文庫)
意外に思う人もいるかもしれないが、北朝鮮は観光客を受け入れている。
本書は、著者が、数回に渡って訪問した北朝鮮と韓国についてのものである。
北朝鮮での観光できる(させられる)場所は限られているが、著者はその中でも事前に収集した情報や、同行したメンバーとの意見交換で、さらに深い部分を見通している。
建築物や技術レベルについての描写は、なかなか興味深い。これは実際に旅行した中でもそういった方面に注意を向けて観察していないと書き得ないと思われる。
また、これまた日本人には少し意外な程、韓国でも北朝鮮を評価する集団がある。
著者によって、これもまた明確に分析されている。
その他にも「よど号ハイジャック事件」の犯人たち事件当時の行動や、現状(著者は実際に彼等に北朝鮮内で会っている)が書いてあったりして、
かなり驚きの近代東アジア史
となっている。。
逆説のニッポン歴史観 : 井沢 元彦(小学館)
この本、歴史ではなく、最近の事象について「へぇ〜、そうだったんだ」と唸ることが書いてある。
「従軍慰安婦」、「”侵略”を”進行”と書き換えた歴史の教科書」、そして、なぜか急成長を遂げた韓国。
これらはごく普通に信じていた。なぜなら、マスコミの大手が大々的に報じていたから。
が、実はそうでは無かった。ちゃんと訂正記事も載っていたらしい。しかし極々小さく。
現在でも日本人をコントロールしている大手新聞社が持つ
イデオロギー優先の報道体質
をこの本で改めて思い知らされた。
インド三国志 : 陳 舜臣(講談社文庫)
タージマハールで有名なインドのムガール(ムガル)王朝の衰退時期の三国志である。
厳密には、三国志ではないのだが、中国の後漢時代の三国志と重なる部分が多い。
ムガール王朝は、インド北西のアフガニスタンあたりからインドに侵入し、築かれたイスラムの王朝。
それに対し、インドの多くは古くからヒンズー教。
近年ではパキスタンとインドの緊張等、あの地域での宗教的な対立は昔からあったわけである。
中央アジアには、他にもシーク教もあるし、イスラムの中でも、スンニー派とシーア派の対立もある。
また、この頃、西ヨーロッパ各国は既にアジアへ香辛料を求めての大航海を行っており、後にインドを支配するイギリスの東インド会社が設立されるのもこの頃である。
本書では、大インド地域における王、部族の衝突の内情だけでなく、ヨーロッパ列強のアジア進出についてもかなり具体的に書かれており、歴史の教科書を読むよりもはるかに経緯が理解しやすい。
また、本書により「なぜ、鎖国中の日本でオランダだけが貿易を許されたか」が分かる。実は、この時代の、この中央アジア情勢とは無関係ではないのである。
実際の歴史を書いているので、実際には終わりが無いと言えば無いのだが、残念なことに、読者としては「あと、もう少し続けて書いて欲しい」という所で終わっている。あとがきに続編が書かれるようなニュアンスの記述があるので、大いに期待したい。
モサド、その真実
〜世界最強のイスラエル諜報機関〜
: 落合信彦(集英社文庫)
下にある「アラブとイスラエル」に続き、中東情勢をもう少し知ってみようと思って読んだ。
「モサド」とは、
世界一優秀と言われるイスラエルの諜報(スパイ)機関
。アメリカのCIAとかソ連のKGBとかと同じ。ただし、モサドは敵の手に落ちたエージェントを
例え死体となっても絶対に見捨てない
。そして、スパイという裏の仕事にも関わらず、
国民の英雄
である。
本書は、国際ジャーナリストの著者が、その大物関係者とのインタビューを基に著している。
モサドの優秀な理由、イラクの原子炉爆撃等のモサドの名声を高めた作戦の舞台裏、世論に非難された作戦の真実とそれを修正しない理由等等。
諜報機関という性質から、超秘密主義であるモサドの大物関係者から聞き出された貴重な証言の数々。
中でも、ナチのアイヒマン逮捕劇、エージェントのウルフガング・ロッツが敵に捕まった時の妻の行動、には
感動
がある。
また、自由レバノン軍ハダット少佐のインタビューは、
マスコミや世論に動かされやすい平和ボケした自分達の目を覚ましてくれる。
尚、下の「アラブとイスラエル」等で中東の歴史を一通り知ってからの方が、本書の内容を数倍楽しめる。
アラブとイスラエル : 高橋和夫(講談社現代新書)
同居人がユダヤ教徒ということもあって、読んでみた。
個人的に、中学校以来、世界史をいう授業を受けていなかったせいもあり、
”ユダヤ人”の定義
を誤解していた。その事実を本書で知り、ショックだった。
また、長い間、中東関係で疑問だった部分が本書でかなり明らかになった。パレスチナ人とはどんな人達? なぜ、イラクはクウェートに侵攻したか? イスラエルは先進国か? アラブ諸国に囲まれたイスラエルが戦争に勝てた理由は?
[内容] イスラエルの建国の経緯、その後のアラブ諸国や諸外国との関係の変化を時系列的に著してある。
歴史を説明しているものの、内容は
まるでフィクションの小説のよう
にドラマ性があって、面白かった。
難点は、本書の文章があまり上手ではない事で、主語がない文やら、修飾語の修飾先が解り辛い文が多数あり、読むのには少し頭を働かせないといけない。
また、本書は1992年に刊行されており、1991年までの事象が著されている。
北朝鮮脱出 下 :
この本、隊員連絡所には上巻が無い。
が、読んでみると、どうやら上巻で、収容所内の生活、下巻が出所後ということのようだ。
「絶望収容所」
に出てくる収容所とは違い、こちらは出所することもあり得る「革命家区域」の収容所のようである。
しかし、出所後の彼らを待っていたのは、ひどい差別社会で、出所者は到底まともに生活できないということだった。
この下巻には、出所後の彼らの生活と脱出の過程が書かれている。
巣鴨プリズン13号鉄扉 : 上坂冬子
太平洋戦争終結後、東京軍事裁判で裁かれた戦犯に関するドキュメンタリーである。
巣鴨プリズンは、戦犯の収容所(刑務所?)であり、その13号鉄扉というのは、死刑台への入り口のドアのことである。
本書では特にB、C級戦犯に焦点を当てており、多くの遺書や公判記録が窺える。
読後の感想としては、やはり敗戦国としては、戦勝国の無理矢理な裁判も受け入れるしかなかったのか、ということである。
戦犯の多くは捕虜収容(所)に関して、虐待・殺害等で起訴されているが、やはり日本軍の規律や風俗に従っており、誰がその任に当たったとしても同じ結末であったろう、と思われる。
具体的には、当時、国際法に批准していなかった日本軍を戦勝国は”国際法違反”で裁いている。これは異常である。
そんな状態で死刑に処せられた人達の無念の記録である。
「言霊の国」解体新書 : 井沢元彦(小学館文庫)
さて、
日本国憲法第9条は、平和に貢献できるか?
大多数の人が、「平和憲法の重要な条文なので、当然平和をもたらすものだ」と思うだろう。
しかし、本当に内容を考えてみると、実はめちゃめちゃ危険なのである。なにせ、戦前の日本と同じく軍(自衛隊)に関して、なんの束縛力も持たないからである。
そりゃあ、当然で「武力の放棄」を謳っているのだから。
では、憲法通りに、自衛隊を放棄すると良いのか? どこかの国が侵略してきたらどうするのか? さらに、そのとき、自衛隊の幹部が暴走して、戒厳令を出そうが、「スパイ狩り」と称して民衆弾圧を始めても、規制できる法律がないのである。
では、憲法を改正して法律を作ればいいのだが、それはできない。なぜなら、日本は「言霊の国」だから。
良い事(平和)だけを「口に出して」、悪いこと(もし、侵略されたら)は「口にしてはならない」のが日本人である。口にすれば、実現するのだから。
さて、本書は自衛隊問題を取り上げているが、個人的に言わせてもらえば、「環境」をタテに声高に原発反対を叫ぶ人達もこれと同じだ。
理想を口に出して、現実の問題は口にしない。実は、そういう人、協力隊にもいる...
刑務所の中(漫画、全1巻) : 花輪 和一
著者は
実際に刑務所に収監され、生活
した人。
刑務所での生活が事細かに描写されている。
「刑務所の中はならず者がハバを効かせていて、荒れている」と思っていたが、刑務官によってきっちり管理されているようである。
所内の生活そのものは苦ではないようなので、やはり世間に遠ざかって失う”時間の長さ”が罪の購いか。
余談だが、この本の中に「何もしないと爪の伸びるのが早い」という節がある。ジャマイカに来てしばらくその状態が続き、妙に納得した。
無理しない方が愛される : 加藤諦三(三笠書房)
心理学の本である。
がんばって、がんばって、不幸な結果を招いてしまう人についての本、という感じである。
さすがに心理学者の作品だけあって、この本を読んでいると「ああ、そうなのかな」と何気なく思ってしまう。
人間の心理を分析してあるのを読むと、なかなか興味深いのであるが、さて、それを自分に応用しようとすると、なかなか難しい。
まぁ、しかし、この本を読んで「そうか、そうだったのか! オレもこれからは...」と考えられる人はかなり単純で、暗示がかけやすい人だろう、という気がする。
つまり、直接的な「こんな時はこうしなさい」的な本ではなく、「こんな人はこうだ」という分析の本だということである。
曙のイスラマバード : 木村 駿・治美(文春文庫)
作者二人は夫婦。子供を日本に残し、暫くの間パキスタンに住むことになり、そこから子供達へ送った手紙がこの本。
勿論、小説ではなく、作者の体験を自身の考えを踏まえて子供に伝えているものである。
最初の方は途上国への海外旅行に慣れていない場面ばかりで非常に退屈で、途中で読むのを止めようか、とも思った。しかし、一通り「驚き」の過程を過ぎると、パキスタンの歴史や周辺諸国の事情、イスラムの生活習慣が登場し、面白い。
本書の発刊は約20年前で、その当時のこの辺りの国の事情を知らなかった自分としては、非常に興味深かった。
なぜ売れるのか : 伊吹 卓(PHP研究所)
タイトルからすると商売の本のようであるが、商売というよりも、それを基点に会社の経営体制をどうするか、までの本だと思う。
著者の方法を実践すれば、商品は100%売れるらしい。
こっちもサラリーマン生活を数年やってきたが、確かに本書でかかれていることは「あたりまえ」と言えばそうのとおりである。
たしかに、この方法を実践できれば「売れる」と思う。しかし、実際にその方法を実践できるように会社の体制を持っていけるかどうか、が問題であろう。
少人数の小回りの利く会社なら可能性はある。
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ミステリー、ロマンス、その他フィクション
サンクチュアリ(漫画、全13巻) : 池上遼一、史村翔(小学館)
大学2年の時、講義で
何気なく座った机の中に偶然
、入っていた。
この本を読まなければ外国一人旅もすることなく、協力隊に参加することも考えず、いちサラリーマンとしての生活を疑問も持たずダラダラ続けていたと思う。まさに
運命を変えた一冊
。
[内容] 惰性で生きている日本人の意識を変えようと、二人の男が政治家とヤクザという地位を選び既成勢力を戦う。
決して妥協をせず、信念に生き、
”活きる”とはどういうことか
、を考えさせる。読むと必ず体の中に力が湧く不思議な本。
ちなみに、未だ嘗てこの漫画を”つまらない”と言う人を見たことがない。
弥勒
(みろく)
: 篠田節子(講談社)
この作者のファンの
ホームページでは、人気第一位
(らしい)。それも納得の内容。
[内容] 美術品に関係して、アジアの小国パスキムに興味をもった日本の新聞社の社員。内乱によってその美術品が破壊されていく事を防ぐため、パスキムに入国したものの...
今まで、国家のイデオロギーというものについては大枠な概念でしか考えなかったが、この話を読み進むうちにその実践に伴う陰と陽、そして、現代社会が求めている”精神性の高さ”にも隠れた闇があることを知った。
”真の平等”の理想がもたらす、”平等でありつづける”社会が反映するものは何か、自由経済でぬくぬく過ごしてきた自分達には解らない世界が書き上げられている。
フィクションにしては、あまりにもリアルな設定、そして展開。
そして、ヒューマンドラマもしっかりあり、後半部の感動的なシーンでは、フィクション小説にも関わらず、涙してしまった。
我利馬
(ガリバー)
の船出 : 灰谷健次郎(新潮文庫)
ブータンに行った同期隊員が心酔していたので読んでみた一冊。
[内容] 主人公は不幸な境遇で育つが、やがてその境遇を振り切る船出を計画する。
船出の準備の段階で知り合う浮浪者から人間として大切なものを学び、前向きに思考することで成長していく。
目標に向かって行く行程から何を学ぶか。そして船出した先で出会ったものとどう向き合っていくか。
自分の進む先が見えなくなってきたときに読むと良い本。感動する。
夜光虫 : 馳 星周
「不夜城」が面白かったので、同じ作者の作品ということで読んでみた。個人的には不夜城と同じくらい面白いと思う。
[内容] 台湾野球で投手である主人公。マフィアがらみの八百長問題から、融通の利かない後輩を殺してしまう。事実を隠し、その妻と恋に落ちる。
八百長問題の捜査が進む中、執拗に主人公を狙う一人の刑事。
やがて明らかになるその憎悪の理由。そして主人公の進む道が決まる。
不夜城 : 馳 星周(角川文庫)
ある晩、深夜番組を何気なく見てると、この本の著者、馳 星周が出ていて、その言動が面白かったので読んでみた。
[内容] 新宿歌舞伎町に住む中国系マフィア同士の争いの中、主人公はある一派からかつての仕事の相棒を一週間以内に探し出すよう命令される。
一週間、様々な知恵を巡らし、人を騙し、策を弄する。しかし、相手のマフィア達もまた自分達が勝ち残るため同様に策を練る。
互いの知略が複雑に絡み合い、ストーリーはテンポ良く展開される。
映画は金城武の演技も下手で、ストーリーも単純化されてイマイチだったが、ディティールにも凝った原作は、おもしろい。
D・ブリッジ・テープ : 沙藤一樹(角川ホラー文庫)
薄い本である。しかも、大部分が台詞仕立てなので、2時間もあれば読めてしまう。
しかし、内容は衝撃的である。
物が溢れていると言われる現在日本。しかし、その中である特異な環境、いや、実際は何気ない生活の一部であるはずの場所だけを生存空間と認識するしかなかった子供はどうなるのか。
あくまで、衝撃的である作品。ジャンルは「ホラー」となっているが、幽霊も殺人鬼も出てこない、大量殺戮も行われない。しかし、読んだ後、確かにホラーだったと感じることができる。
恋 : 小池真理子(ハヤカワ文庫)
この作品は、ある犯罪者となった女性の回顧録に仕立ててある。
事件があったのは1972年(あ、生まれた年だ)、浅間山荘事件の時期である。
そして、物語の冒頭はその女性が癌で息を引き取った後の葬儀から始まり、彼女が病床で語った回顧録を書こうとしたノンフィクション作家とその女性との面会シーンへと続く。
その面会シーンで、既に少し心を揺さぶられてしまい、しかも、回顧録にはある”秘密”がある、という。
その序章部分が終わった時点で、あとはどんどん時間を見つけては読み進んでしまった。
物語前半の、ともすれば退屈に過ぎていきそうな部分ですら、読者を退屈させず、ましてやクライマックス後にはまた、心を揺さぶられる。
心理サスペンス作家の作品で、最近はよくTVドラマでその手のものを観ているせいか、意外と”秘密”部分は驚かされなかったが、それでも、後半部分は、読みながら何故か喉の渇きを覚えた。
物語を一旦読み終えた後、冒頭のシーンに戻り、主人公の遺言を再び読み、既に離れてしまった主人公の愛した人達との距離を思うと胸が熱くなる。
夏の災厄
: 篠田節子(文春文庫)
同期隊員の西口カズさんに勧められて読んだ。
この本は面白い。
何気ない生活の一部から始まる、伝染病。そしてその恐怖は伝染病そのものだけでなく、周辺の人間の行動にもよって引き起こされていく。
このストーリーの面白さは、
実に巧妙な読者への「裏切り」
にある。
話が進んでいき、小説を読みなれた読者であればあるほど、考えを巡らせやすいストーリー展開をごく自然に裏切る。
そして、流れは非常に自然に何気ない方向で進むにも関わらず、先が気になって読むのを止められない。
読者にフィクションを「自然」と思わせる技術、素晴らしい。
この話のもう一方の特徴として、現在の日本の公務員(お役所)世界が上手く描かれている。
公務員の人が読むと、面白さ倍増
ではないか、と公務員ではない自分は思うのだが...
倒錯のロンド : 折原 一(講談社文庫)
折原一の叙述ミステリー。
自分は、この本でこの著者は三作目になるが、なかなか叙述ミステリーを解くのは難しい!。
他の作品もそうなのだが、”叙述”がミステリーを構成しているので、トリックそのものを暴けばよい、というものではない。
というよりも、トリックは殆ど無かったりもする。
各登場人物の視点から書かれた物語が本編を構成しており、読者としては当然その話を読み進めることになる。
トリックの推理は、各個人の視点を整理して、ことの成り行きを整理することにある。
叙述ミステリーは、難しい反面、謎解きを読んだ後にストーリーが頭の中で音を立てて”解りやすく”再構築される感じがして、非常に楽しめる。
東京駅物語 : 北原亞以子(新潮文庫)
東京府に中央停車場ができる工事の時期から物語は始まる。そして、中央停車場はやがて東京駅となる。
日露戦争の起こった明治後期、駅が操業開始した大正3年、敗戦となる昭和、東京駅を舞台に、それぞれの時代の人々がそれぞれのドラマを演じる。
この期間の東京駅という限られた舞台で、いろいろな人間が登場する”グランドホテル形式”のストーリーである。
基本的に短編のようになっているが、実は、それぞれの作品が登場人物によってつながる。
誰しも、一篇の小説を読み終えると「主人公のその後」は気になるのではないだろうか。
そのあたり、痒いところを掻いてくれているせいか、先がどんどんと楽しみになっていく。
特に奇抜なストーリー展開があるワケでもないのに、本書の「お勧めランク」を上げてみた。それは、読んだ後、決して少なくない主要な登場人物全員が「きっと、実在したんだろうなぁ」と思わされてしまう程のリアリティを出す描写の上手さのせいだろう。
当時の現実生活のテンポで展開していくストーリーは、じわっと胸に迫り、読んだ後、余韻に浸ってしまう。
聖域 : 篠田節子(講談社文庫)
編集者である主人公は、ある日、未完の小説「聖域」を先輩編集者の荷物から見つける。
内容に興味を持ち、「面白い。是非発行したい」と思った彼は作者の行方を探し始める。
そして、途中、その作者に関わった人たちが全て不幸に見舞われている事も知るが、それでも捜索を続ける。
一体、何故彼らは不幸になったのか? 一体作者はどこにいるのか? そもそも、続きが無いのは何故か?
ところで、本作品の舞台(?)は仏教と、日本の土着信仰である。とくに東北、イタコである。
この作者にはいつも驚かされるが、背景を作る作業にすごい量の知識が埋め込まれている。
その知識が作品を限りなく現実へと近づけている。
顔に降りかかる雨 : 桐野夏生(講談社文庫)
ハードボイルド小説である。
未亡人の主人公の友人が、ある日突然、暴力団がらみの金を持って失踪。
そして彼女を探すように暴力団から脅迫される主人公、その期間は一週間。
江戸川乱歩賞受賞作だけあって、事件の謎が深い。最後の最後まで展開が予想できなかった複線達。
また、随所に女性ならではの心模様の変化が、さらっと一行入っており、読者を上手く感情移入させている。
カノン
: 篠田節子(文春文庫)
同じ作者の「夏の災厄」に続き、西口カズさんに勧められて読んだ。
20年前の若かりし頃、プロのチェリストを目指した女性が当時思いを寄せた相手が自殺する。
そして、その女性には一本のテープが託され、そのテープから不思議な現象が起こる。
やがて、20年前の出来事が全て明らかになっていき、次第に明らかになる故人の意図。
カバーの解説にもあるように、最初は単なるホラー作品かと思ったが、読み進み故人の意図が判明するにつれ、作者のこの作品の主題が浮かび上がってくる。
そして、意外なタイミングで意外な事実が発覚し、またしても読者を裏切る、この作者。実に上手い。
ところで、この作品には、音楽(特にバッハ作品)に関する記述が難解な程出てくる。作者は東京学芸大学卒らしいのだが、音楽専攻だったのか?
灰色の仮面: 折原 一(講談社文庫)
本格的なミステリー小説である。
と、思う人もあれば、「読者をだましている」という反応の人も中にはいるようである、本書に関しては。
というのも、本書は叙述ミステリーという分野であるから。
つまり、犯行に及ぶ人間やその協力者が知恵を絞ってアリバイ工作をし、証拠を消し...といったタイプではないのである。
叙述、つまり、小説の書き方、記載のし方、がトリックなのである...が、素直に読後の感想を言わせてもらうと、「面白い。十分読み応えはあった」。
トリックを推理し、クライマックス以前に犯人を探し当ててやろう、と考えながら進む読者としては、確かに「騙された!」と思ったが、やはり、そこは著者の叙述トリックの腕前であろう。
”良い”騙し方であり、”良い”裏切りであった。
舞台が大きく広がるわけでもなく、登場人物の人間関係や利害関係が特に複雑に絡み合っているわけでもない。
だが、しかし! ミステリーとしては、大いに楽しめた作品。
第4の神話 : 篠田節子(角川書店)
主人公は、40歳を目前にした売れない女性ライター。
大手出版社から4年前に他界した女性タレント小説家の評伝を書くように依頼される。
その小説家の第1の神話は育ちの良さに裏打ちされ時代の寵児となったこと。しかし、家庭も大事にしつつ作家業を続けた、という事が第2の神話。
仕事が欲しい主人公は、そのタレント小説家を売り出した当の出版社からの意向に沿い、故人のイメージを壊すことなく評伝を第3の神話として書き上げる。
しかし、取材を進めるにつれ次第に明らかになっていく実態、そして、氷解していく疑問。
この作者の他作品同様、綿密な取材で背景を固めた作品。今回は前衛芸術、特に舞台。
そして、出版業界についての記述もなされており、”なんで、こんなつまらない作家が売れるんだろう?”というからくりが具体例で示される。
火車 : 宮部みゆき(新潮文庫)
主人公は、休職中とはいえ刑事。推理小説、ミステリー小説である。
親戚筋からの人探しをプライベートに始める。
失踪した人間の捜索は単純な仕事と思いきや、実はその人物(女性)には非常に入り組んだ事情があることが発覚。
その事情を調べて行くうち、「これは事件ではないか?」という疑念と、「いや、先走りすぎだ」という自己抑制が入り混じる。
この小説には、借金(クレジット)地獄についても模様が描かれており、それに関する弁護士の意見も興味深い。
「借金地獄はまじめな気の小さい人間が陥ってしまう公害のようなものです。ささやかな幸せを掴もうとして、ふと嵌まり込んでいってしまうもの」
しかし、個人的には、いくらこの下りを読んでも、どうしても「公害」とは思えず、
「自分の身の程を弁えずに金を遣ったからでしょう」
と言いたくなるのは自分だけでしょうか???
セカンド・ワイフ : 吉村達也(集英社文庫)
結婚を決めるには、人それぞれいろいろと事情があるようで。
ある女性は現実的に、”条件”で結婚相手を選ぶ。
それは彼女にとって、すばらしい条件の男性。
ところが、いまひとつ、ヒミツがありそうな...
さて、単なる浮気なのか、と思いきや、物語はもっと飛躍する。
いつも、謎は解いてやる、という姿勢でミステリーを読むのだが、この話ではその飛躍の先がなかなかお目にかからないパターンだったので、してやられた。
リヴィエラを撃て(上・下) : 高村 薫(新潮文庫)
諜報の世界。
CIA、MI5、MI6、外事警察、さらに、IRA、中国政府、さまざまな組織がの思惑が絡み合い、スパイ達は動く。
スパイとはいえ、表の顔を持ち、人間としての感情もある彼等がどのようにかかわり合っていくのか。
さて、このタイトルになっているリヴィエラとは誰なのか、その謎は物語の後半まで解けず、そして最後に生き残るのは誰なのか。
諜報の世界を細密に描写した作品。このリアリティはこの業界の実態を読者に納得させる。
愛なんか : 唯川 恵(幻冬舎文庫)
短編集。
結婚や恋愛の相手を選ぶときに考えさせられる一冊。
いろいろな恋愛からいろいろなパターンの結婚OR独身を選んだ女性達12人のお話。
報われない相手と別れられないヒト、友達から彼氏を奪ってまで結婚してみたものの...というヒト、平凡な人生を選ぼうとするオトコを理解できないヒト、いろいろ。
共通するのは、全員、しっかりと自分をもっていて、自分の考えで進んでいることだ。
こういうヒト達は、たとえ結果的に不幸になっても後悔しないものかなぁ、と思うのが周囲なのだが、やはり現実は後悔もするようである。
実際にはこんなヒトいない(自分はならない)と思っても、意外と誰もがこの12人の中の一人になるかも、という気もします。
まぁ、不幸の原因は、オトコを見る目が無かった、と言ってしまえばそれまでなのだが...
家族狩り
: 天童 荒太
読んでいて”痛い”小説である。
物語は、作者がこの事件の報告書を書く報告書形式で一日一日進んでいく。
現代社会における不登校、家庭内暴力等の問題を抱えた家庭。その家庭で起こる残虐な事件。
作品のテーマは目新しいものではないが、事件の内容が”痛く”て惹き込まれる。
被害者も、担当刑事も似通った経験を持っていた。それらに対して、行政の施設の対応は、学校の対応は...この作品中ではリアルに対応してくれている。
宮部みゆきの
「理由」
や
「模倣犯」
もこの本と似たような形式で話が進んでいくが、古いこちらの方が面白い。
MISSING : 本多孝好(双葉文庫)
短編集。
それぞれの話にちょっとした謎が入っている。
それぞれの物語の謎は、はじめは、ちょっと変なのと思う程度だが、読み進むと、ははぁ、と納得。
しかも、それぞれに話のオチの意味が深い。
このあたり、短い話であるのにきっちり深い余韻を残せるあたりが著者のウデなのだろう。
一つの話を味わいながら読める短編集。
風紋の街 : 西村寿行(角川文庫)
一応、官能小説、らしい。
もっとも、本書は昭和60年に出版されており、現在なら、この程度の性描写なら、アクション小説や冒険小説でもいいかな、と思う。
主人公は、元寇のときに有名になった九州の豪族、松浦水軍の直系の子孫の二人である。
とはいえ、物語の最初から二人とも家を放逐され、無人島で暮らしており、そこから始まる破天荒人生がこの物語である。
ストーリーの展開はオーソドックスである。一つのトラブル(イベント)が別のイベントを生じ、さらにそこから別のイベントが生じる。
伏線が張り巡らされた複雑なストーリーが好きなワリには、本書のランキングがそこそこ高いのは何故か? それはシンプルなストーリー展開と、二人のシンプルな性格が読む側に心地よく読ませ、そして、最後にはやはりお決まり通り盛り上がって、感動のシーンに辿り付く。
読み終えて、あくまで冷静にストーリーを分析すると「そんなアホな」と思うが、よくできた娯楽映画もそういうストーリー展開である場合が多いように思う。
楽園 : 鈴木光司(新潮社)
ファンタジー小説である。
といっても、剣や魔法が出てくる類ではない。壮大な歴史を持つストーリーである。
主人公は遥か太古の昔のモンゴロイド。
そして、彼らの集落に部族間紛争があり、それに巻き込まれていくのだが、その後に壮大なストーリーは始まる。
長い年月を経るストーリーだけに、読後の満足感もひとしお。
愛には少し足りない : 唯川 恵(幻冬舎文庫)
さてさて、普通の結婚も、やりようによっては波乱を含むものだなぁ、と考えさせられる。
もちろん、フィクションなので、実際にホントにこんな展開になるものなのか??、という疑問もわくのだが。
この本は、女性と男性で読み進める途中の感想が大きく分かれると思う。
自立的な女性はこの主人公の行動に共感するだろうし、倫理観がしっかりしてるヒト(今時、こういう言い方も古いのかな?)だと、嫌悪するだろう。
いや、まぁ、マリッジブルーという言葉も理解はしているので、この主人公の行動も理解できないではないのだが、自分だったら、こんなヒトと結婚するのはヤだな。
しかし、最後まで読めば、読者は”納得”はする、一応。まぁ、因果応報ですかね...。
イリュージョン : リチャード・バック(集英社文庫)
副題は”退屈している救世主の冒険”である。
本書を読んで、現代社会に救世主が生きていたら、というか、生活していたらこんな感じかなぁ、という気がする。
救世主はセスナ飛行機に乗って、アメリカの空を飛び、流れ者で、同業者の”リチャード”(作者と同名)と出会い共に旅する。
当然、救世主らしく、精神論というか、教えのようなものを語る事もある。しかし、この救世主は、基本的には非常に解りやすい主義を持っている。
で、まぁ、「ああ、なるほど」と納得させられてしまう。このあたりは、作者の巧さであろう。
また、本書の中に出てくる”救世主入門”の一説一説はなかなか重みのある詩である。
ちなみに、訳者は
村上龍
で、あとがきに相変わらず麻薬だの娼婦だのと書いているので、本文だけ読むのがお勧め。
黄金を抱いて翔べ : 高村薫(新潮文庫)
「これ、いっぱい変電所とかの用語が出てくるよ」と同期隊員のカズさんに勧められて読んでみた。
主人公とその仲間は金塊を強奪する計画を立てる。
とはいえ、事はそれだけに収まらず、計画にはいろいろと「陽動」が行われる。
その陽動の規模が半端でないスケールの大きさ。
それには、非合法な「爆発物」の入手、そしてそれを扱う事のできる人間の確保が必須である。さて、その人物はどういう人材なのか?
しかし、計画の最中、誰かが裏切っている、それは誰で、何のために? そして、計画は成功するのか?
...ところで、作品中、大阪にある変電所で、特別高圧電路の電圧が66000Vとなっているのだが、大阪は60Hz地域なので、77000Vの間違いではないか、と思う。多分、作者は関東で変電所の取材をしたんだろう。
伝説無き地 : 船戸与一(講談社文庫)
舞台は南米コロンビアとベネズエラ。
傾きかけた富豪の土地に、希少希土類の鉱脈が発見され、その採掘権を先進国に売れば莫大な金が手に入る。
しかし、その土地にはコロンビアからの難民が不法入居していた。そして彼等は御宗祖を祀り、近々祭りが行われるという。
一方、富豪の元には、身元を詐称したコロンビア女が居候しており、そこに12年前に出奔した次男が帰還する。その日、事件が起きる。
国境警備隊、警察、共産主義ゲリラ、刑務所...南米の組織、人種、習慣がきっちりと随所に盛り込まれている長編小説。
神話の果て : 船戸与一(講談社文庫)
舞台は南米ペルー。
アンデスの高地に発見されたウラン鉱脈を確保するため、一人の日本人がエージェントとして送り込まれる。
その土地は、ゲリラの勢力内。そのゲリラを弱体化させるのが指名である。
綿密に計画されたゲリラ首領暗殺計画であるが、それを阻もうとするCIA、そして、独自の感情で動く殺し屋。
「伝説無き地」と共に、「南米3部作」のひとつ。
キスまでの距離 : 村山由佳(集英社文庫)
いやぁ〜、もう、ういういしい。
自分も高校生時代にこんなシチュエーションがあったらなぁ〜、くぅ〜っ! と思ってしまう。
もぉ〜、いやぁ、なんとゆーか、さわやかぁ〜な話なのである。
ストーリー的には、多少山場も作ってあるのだが、なんとなく展開も予想できて、主人公の保護者になった気分で読んでる間中幸せ〜な感じで読めます。
気を楽にして、ええなぁ〜、ってほのぼの感で読める本。
ガウディの夏 : 五木 寛之(角川文庫)
現代社会に暮らす人は皆、公にできない部分を持っている。
その類の情報を一手に握る方法があったとしたら、そして、それを行使されたとしたら...
広告業界を舞台に、現代社会の個人レベル情報を操った巧みな戦略が展開される。
なるほど!そういう手があったのか! と驚かされる程、巧みな戦略である。
空夜 : 帚木蓬生
(ははきぎほうせい)
(講談社文庫)
恋愛感情なく結婚、出産した二人の女性に、それぞれ好きな男性が、という話。
主人公の家業は田舎の村のワイン醸造。中学時代に家庭の事情で天候してしまった初恋の幼なじみが、その村の診療医として戻ってくる。
そして、現在の夫は、愛情も感じず、ギャンブル好きでどうしようもない。
主人公の友人は40代の女性ブティック経営者。彼女も現在の夫には愛情を感じず、やはり、恋人がいる。
そして、現在の夫は愛人のもとにいる。
この二人の恋愛ストーリーなのだが、この話の良いところは、舞台が九州の田舎の村であり、彼女達とその周囲の人々は様様な木々や花々、または蛍といった、非常に風情のある物を好む事である。
話を読んでいて頭の中ですばらしい景色が浮かび上がってくる
。
この話を読んで悔しく思ったのは、自分に草花の知識が乏しいこと。きっと、もっと知っていれば、もっと綺麗な風景が連想できたろうに。
火の航跡 : 平岩弓枝(文春文庫)
ある日突然、夫が失踪する。
そして残された妻と、彼女に思いを寄せる二人の男は彼女を手助けして、失踪の謎に迫る。
しかし、夫の行方を掴んだ先から、逃げられ、なかなか捕まらない。そうこうしている内に別の殺人事件がおこり、その推理も揺れ動く。
読者としては、物語中盤で、実行犯を推理できたが、最終的に怪しいと睨んでいた人物の事件への関与は最後まで読み進めないと解らなかった。
よくできたトリックだと思う
。また、この物語は、
陶芸へ造詣が深い
とより、楽しめる。
ところで、この話は昭和52年を背景としており、当然携帯電話もなく、新幹線も「のぞみ」が無かったりでおもしろい。
一番興味深かったのは、国際線の飛行機が、ヨーロッパまで行くのに、多数の空港を経由することである。たとえば、ローマまで行く乗客が、香港、バンコク、ボンベイ、カラチ、カイロ、アテネと一度ずつ、空港ロビーまでわざわざ降りていたことである。この頃は、飛行機の移動も現在よりも時間がかかったのであろう。
李歐
: 高村薫(講談社文庫)
不幸な境遇で育った”今時の若者”が、中国の殺し屋と会い、情を深め、人生を変える物語。
[内容] 子供の頃、両親が離婚した主人公は、大阪の金属加工の町工場で、大陸の人間たちと会う。
大学生となって、再び大阪に戻った主人公は過去の因縁から事件に巻き込まれ、ある殺し屋と出会う。
そして、その後もその殺し屋との関係は続く。
主人公が生まれたのは1954年。その後のアジア情勢を振り返りながら読むと良い。進行に合わせて、簡単な年表を作ってみると、物語が尚、理解しやすいかも。
黒猫館の殺人 : 綾辻行人(講談社文庫)
すでに5作品が出版されている”館シリーズ”らしいのだが、この本を最初に読んでしまった。
おかげで、5番目の作品”時計館の殺人”の犯人が解ってしまった...
記憶喪失になった老人が過去に書いたと思われる手記に書いてあった殺人事件を解き明かそうとする推理小説である。
読んでいて、文章とストーリー展開の速度に作者のかなり手馴れたものを感じる。
伏線を重視した典型的な日本の作品という感じで、こちらも読みながら秘密を暴きつつ進めて楽しめる。
注意深く読んでいくと、それだけで結構解けてしまう謎が多いが、気付かない人は謎解きの段階まで全く気付かないであろう。
模倣犯
(上・下) : 宮部みゆき(小学館)
主人公は...この事件に関わる人間全て...かな。
凶悪な女性連続誘拐殺人事件が起こり、死体発見者があり、警察組織の中で捜査する人間あり、目撃者あり、それを記事にするライターあり。
また、殺人事件に関わっておきる遺族の不幸−加害者側の遺族も含めて−の心理を書き綴ってある。
この作者の作品ではありがちな、”全ての人間の生活が事細かに書かれて”おり、例によって、残虐シーン、性暴力シーンを書くことからは逃げている。
当初ばらばらに進んでいた登場人物達の生活がお互い接点を持ち始め、最後には強烈に影響しあうストーリーの展開は読んでいる内に妙に納得できるのだが、各人物について詳細に書きすぎて、話が長いのでストーリーのテンポが悪い。話のテーマや展開だけでなく、この辺も
「家族狩り」
を手本にして欲しかった。
テーマもありがちなものなので、この長い長い話を読むのは非常に疲れる。
はいからさんが通る(漫画:復刻版は全4巻) : 大和 和紀(講談社)
有名な少女漫画。昔、夕方にやってたTVの再放送を少し観てた。少女漫画らしいストーリー展開で、単純に楽しめる(TVは話の途中で終了してたような気がする)。単行本には外伝も収録されており、それもまた良い話。
まさに、大正時代のロマンス!という感じ。