共通様式2
隊員活動報告書

第4号(赴任1年6ヶ月目)として、以下の項目について報告します。
(1)任国内・外旅行について
(2)調査/考察事項


(1) 任国内・外旅行について
 今年の7月、任国外研修旅行として、コスタリカ、メキシコ、パナマを訪問した。
 この三国は任国外旅行先として、訪問した隊員が多いという点でジャマイカ隊員にとって非常にメジャーであると言える。従って、これらの国の町並みやインフラの整備状況、風習については既に過去の彼等の活動報告書にも多く記載されているものと思われるので、私は少し違った観点で報告書を書きたいと思う。

 まず、この三国を訪問する計画を協力隊員の規則に則り、出発の3ヶ月前に立て事務所に提出した。そして、その時期から、スペイン語の勉強を開始した。
 3ヶ月という期間は、日本での訓練所生活と同じ期間であり、訓練所の出所時にはスペイン語圏派遣隊員はかなり話せるようになっていた記憶があったので、自分でもトライしてみた次第である。
 ただし、ジャマイカは英語の国。ある程度学のある人しかスペイン語が判らないので、職場である図書館に一冊だけある英西辞書と、インターネット上のスペイン語関係のホームページを元にした独学である。
 とはいえ、旅先では、さほど不自由もなく通じたので、そこそこの成果はあったものと思う。
 そこで、私がこの報告書を書く観点とは、言語についてである。

ジャマイカの歴史
 このレポートが読まれるのはジャマイカ関係者のみとは限らないので、まずは、ジャマイカの歴史について触れたい。
 ジャマイカは、当初、スペインの植民地となっており、原住民アワラク族が居たとされる。その後、アワラク族は過酷な労働、病気等が原因で絶滅し、アフリカから奴隷が多く連れてこられ、現在のジャマイカ人の祖先となった。
宗主国はスペインからイギリスへと変わっており、それはジャマイカの地名にも残っている。私の配属先近くのオーチョ・リオスはオチョ=8、リオス=川の意味である。実際の川は8つまでは無いのだが、元々原住民が「オーチョリオス」と似たような地名で呼んでおり、実際に川や滝があったことからスペイン人が改称したという説がある。
 また、スペイン統治時代の首都が、その名もずばりスパニッシュタウンである。
 そして、奴隷として使役されていた時代にアフリカ人達の間で英語からパトワ語が出来た、とされる。
 つまり、元々は原住民の言葉があったが、その後、スペイン語、英語と代わり、パトワ語が作られた、という次第である。現在のジャマイカの英語にそれらの影響が多少見受けられる。
 ちなみに、生徒から「中国人と日本人はどう違うの?」という疑問を投げかけられることが少なくない(因みに、この質問は私が小説を読んでいるときに多い。漢字を読んでいるからだと思われる)。その際、日本は大昔に中国から宗教、文字等を輸入したと答えると、「ああ、ジャマイカとトリニダード・トバゴのような関係ね」と納得される。このトリニダード・トバゴの現地語もパトワ語と呼ばれている。

スペイン語の影響
 前に述べたように、言語の上でも、ジャマイカ人の英語はスペイン語の影響を受けているようである。
 まず、ジャマイカではスペイン語と同じく基本的に、hが発音されないか、非常に弱い場合が多い。
 例えば、空腹であることをあらわすhungryは、アングリーと聞こえる。これは、パトワ語でも同様で、Mi hungry.はミ アングリである。(ちなみに「怒る」は、Get mad)。
 私の名前はShuheiだが、ジャマイカではシューエイまたはシューイと発音され、赴任して1年半が経った今でも、正式な書類にShueiと書かれていたりもする。
 hが発音されない影響からか、日本人には難しいthの発音も、ジャマイカでは、殆どtの発音のみである。
 であるから、3,000は、トゥリー タウザンであるし、3本の木は、トゥリー トゥリーである。
 少しパトワ語の表現を紹介すると、
 ジャマイカの挨拶で、Everything criss? (万事順調か? の意)というのがあるが、発音は、「エヴリティン クリス?」 である。
 また、濁る場合は、Thatはダット、thereはデァである。
 パトワ語で「(まさに)そこ」は、「デ ソ」である。

 次に、drの発音が面白い。
 drinkはデュイン(ク)、driveはデュライ(ブ)、百はハンデュイッ(ド)と発音される。
 おそらく、今書いたカタカナの読みにアクセントを付けて読めば、そのまま読んでもたいていのジャマイカ人には通じる。
 逆に私は赴任当初、「ユゥ ヲン デュイン?」 と生徒に聞かれ、最初の2単語のYou want は理解できたが、彼が飲み物を掲げてなければ最後まで「デュイン」が判らなかっただろう。
 さて、この発音もスペイン語の影響ではないか、と私は考えている。
 というのは、スペイン語では、単語の途中に出てくるrとrrでは発音が違い、rrは普通にrの発音をするが、rが一つの場合、舌を巻いて発音するからである。
 「舌を巻く」というのは、(少し例えが汚いが)喧嘩腰になったときの、「べらんめぇ」の「ら」とか、「おんどりゃあ」の「りゃ」辺りを想像してもらうと良い。
 この発音で、drを発音すると、どうしてもrが発音しづらく、デュになってしまうようである。

ジャマイカ人の英語
 周知のとおり、英語では、haveの主語が3人称単数で現在形の場合、hasになる。
 しかし、ジャマイカでは、しっかりした地位にある人、例えば大学の校長秘書でも、She have 〜 と言う。
 疑問文のDoesや否定文のdoesn'tも偶にDoやDon'tになっていたりもする。
 日本語やスペイン語と比べ、英語では主語が省略される場合が少なく、この場合も主語は明らかなので、動詞をわざわざ活用変化させなくても、意味は十分に通じる。
 スペイン語を勉強してみて感じたのは、英語のように主語が必須な言語ならば、動詞の人称による語尾の活用は不要ではないか、ということである。
 ただし、同僚の教師の意見を聞くと、「生徒の英語はひどい」とのことであるから、別にShe haveが正とされているわけではないようだ。
 また、ジャマイカ人の英語では、単語の途中に出てくるskの発音が何故か逆になる。
 つまり、deskはデクスであり、askはアクスなのである。
 仕事柄、desktopと言う機会が多いので、生徒に「デ・ス・ク、トップ」と教えてゆっくり喋らせてみても、「de・k・s top」と言い、直すのは難しいようである。

ジャマイカのパトワ語
 ジャマイカの田舎ではパトワ語が話されている。
 英語を元に作られたと言われており、パトワ語の中に英語が混じったり、英語の中にパトワ語が混じったり、である。ただ、英語であっても訛りのきつい人のものはパトワ語のように聞こえる。
 パトワ語には英語と全く対応した言葉も多い。これは、パトワの起源が英語であるから、当然である。しかし、文法が異なっている点が多少ある。
 新しく造られた言語であるからか、大まかに言うと、簡素化されているようである。

 英語とほぼ同じなので、I have to do itであれば、「ミ ハ フィ ドゥーイトゥゥ」という感じである。
 Iがミ、haveがハ、toがフィに対応している例である。
 ただ、英語では、殆ど聞き取れないはずのitのtにアクセントをつけて、「トゥゥ」と発音するのがいかにもジャマイカ人らしい感じがする。

 パトワ語の格変化は英語よりも簡単である。
 例えば、I, my, meは全て「ミ」、You, your, youは全て「ユ」、he, his, himは全て「イム」となる。ただし、Sheとherは、パトワでも「シ」(シィではなく、短く発音する)と「ハ」である。
 所有格の場合は、ミとかユがそのままの場合もあるし、「フィ ミ」とか、「ア ミ」とか、英語で言うとof meという形で表現されたりもする。もちろん、「あなたの」は「フィ ユ」とか「ア ユ」である。
 例えば、「私の家には冷蔵庫が無い I don't have (any) fridge in my house.」は、「ミ ノァ アヴ フリッジ イナ ミ ヤード」となる(フリッジは冷蔵庫。イナ ミはイン ア ミの短縮形で、ヤードは庭または家)。

 また、英語と大きく違うのが、時制である。
 現在進行形は、動詞の前に「ア」を付けるだけである。
 つまり、I'm eatingは、ミ ア ニャム。
 I'm going (back) to (my) home.は、「ミ ア ゴ ワーム(home)」となり、このgoingは、未来形にも使われる。
 I'm going to eat something.「何か食べてくるよ」は、「ミ ア ゴ ニャム シッンン フィ ニャム」となる。
 ただし、未来形については、「主語+ゴワイン(going)+動詞」というパターンもある。
 動詞の過去形活用は基本的に無い。たまにhadとかbeenとかが会話に混じっていることがあるので、完全に無いとは言いきれないが、基本的には、現在形の文に「オルレディ」(already)か「イエッ(yet)」、否定であれば、「ネヴァ(never)」を付けるだけで通じる。
 「もう終わった?」は「ユ フィニッ(finish) オルレディ?」
 
 否定は、「ノ」、「ノァ」とか、「ネヴァ」であるが、don'tも基本的にこれで済まされる(当然doesn'tも存在しない)。
  例えば、I have something to eat.は、パトワ語では、「ミ アヴ シッンン フィ ニャム」と発音する。
 それぞれ、ミがI、アヴはhave、シッンンはsomething、フィはto、ニャムがeatに対応すると思ってもらえば良い。
 この例では、文法も同じだが、この場合の否定形は変わってくる。
I have nothing to eat…@とか、I don't have anything to eat…Aである。
 @が ミ アヴ ナッンン フィ ニャムであり、英語と似ているのだが、Aは ミ ノァ アヴ ナッンン フィ ニャム となるのである。
 つまり、両方ともナッンン(nothing)であり、anythingに相当する単語が無いのであるが、このケースでは別に無くても問題ない(「無くても問題ない」から、造られなかったのであろうか)。ちなみに、また、「何でも良いよ」で「Anything, all right!」のときは、「エニティン オーライ」で、どちらかと言うと英語である。
 パトワ語が新しい言葉だと感じるのは、この他に、前置詞を考えた場合である。
 たいていの前置詞が「ア」か「フィ」であり、「フィ」はof, to, for等を兼ねるし、「ア」に至っては、前置詞以外にもbe動詞になったりもする。
 「おまえは嘘つきだ」と言うときは、「ユ ア バガモォトゥ」となり(バガモォトゥは嘘つきの意)、この場合アはbe動詞である。また、前に述べた現在進行形のときにも使われる。
 このように少数で多数の単語を兼ねる言語は勉強し易い。Be動詞の変化を覚える必要も無ければ、日本人が苦手とする前置詞で悩む必要もないのだから。
 ここまで来ると、既に想像いただけると思うが、やはり日本人が苦手とする冠詞も殆どの場合において無い。
 文法が単純化された言語であるので、勉強し易いが、慣れが必要である。発音や言い回しのバリエーションが多いのである。
 特に発音(聞き取り)は難しい。
 


(2)調査/考察事項
授業
 今学期、赴任先の学校側から要求された授業数は週に15時間である。
 その中にはHTMLやJava Scriptなどの自分にとっては今学期に初めて教えるものもあるが、昨年度と同様、Productivity tools(Windows, MS-Word, MS-EXCELの使い方)といったものも含まれている。
 Productivity toolsの授業は昨年度も行っているので、課題や試験の資料に関しては流用している。
 ところが、今回は先学期と比べ、そのコースの授業時間数が増加した。そのため当たり前ではあるが、同じ内容をホワイトボード(コンピュータラボは、チョークの粉の関係で黒板ではない)に書き、消す作業を繰り返していた。
 その結果、2週間毎にはマーカーを補充することになり、大学側に負担となっていた。また、クラスによっては、30人を超える人数がおり、コンピュータラボの後ろの方では教師の声が聞きづらいという問題もあった。
 そこで、今学期は「操作方法の説明文(Instruction)をフロッピーディスク(以下、FD)で準備する」という方針に変えた。
 基本的には、
@進捗度合いの高いクラスに合わせたスケジュールで、説明文をMS-Wordにてう事前に作成しておく(この際、説明文とFDそのものに上書き禁止…ライトプロテクトをかけておく)。
Aそれを数枚のFDにコピーして持参し、生徒に分配する。
B生徒それぞれに説明文をPC上にコピーしてもらい、それを読んでもらう。
という手順にし、説明文には練習課題を挿入してある。 
 データにライトプロテクトをかけておくのは、生徒が誤って説明文を書き換えてしまったり、消去してしまったりすることへの予防策である。
 そして、各授業の終わりに生徒一人一人の進捗状況をチェックし、出席簿に記入する。これにより、いわゆる「代返」や、出欠確認後すぐに途中退出する生徒は欠席となり、正しくアテンダンスを把握することができる。
 また、この方式であれば、学期末にはその練習問題の進捗状況を課題に代えて成績をつけることができる。
 実は、生徒数が増えたために学校内ではPCの台数が足りず、生徒全員に課題を課す場合はPCを自宅に持っている生徒と持っていない生徒で不公平な状況になっていた。
 この問題も、課題を各授業の練習問題に代えることで解決された。
 ただ、この方式では、生徒のPC上に説明文のウィンドウと練習問題用のウィンドウが同時に開いている状態であるため、画面が非常に狭い。本来であれば、毎回紙に印刷して配布したいところであるが、生徒数を考えると、毎回膨大な紙を消費することになる。ところが、ここのコピー設備は非常に貧弱であり、大量印刷には不向きなので、実施していない。


図書館でのPC管理
 今学期も引き続き、授業の無い時間帯は図書館のPCエリアでPCの管理を行っているのだが、最近、電話線によるトラブルが多く、インターネットのサービスが停止するケースが増えている。
 大学の料金滞納というものもあったが、原因の多くは電話会社(プロバイダーも兼ねている)側のトラブルや、落雷等である。その都度、アドミニストレーションオフィスに出向き、事情を説明して電話会社に修理を依頼してもらっているが、対応が遅い。
 モニーグが山間部にあるという地理的な条件もあるので、この問題は個人ではどうしようもないのだが、大学側にはもっと電話会社にアピールしてくれるように依頼している。
 インターネットサービスが利用できない期間はPCを利用する生徒の数も減るので、そのタイミングにPCのメンテナンスを実施している。しかし、その際に、デバイスドライバや付属ソフトといった必要なソフトウェアやパスワード等をラボテクニシャンが管理しており、問題がある。
 というのは、ジャマイカ人の傾向として、「カギを持つ」、「パスワードを知る」といった類のことは、「地位」を証明するものであるかのごとく感じるようである。それが個人の財産に関してであれば当然なのだが、公共物に対してもそうなので、日本人から見ると、非常に子供っぽいというしかない。そして、モニーグ大学のラボテクニシャンはこの傾向が強い。よって、どんなに正当な理由があろうとも、パスワードは教えたがらない。
 もちろん、パスワードという性質上、誰でも知っていては困るのだが、メンテナンス担当者にも教えないのである。
 では、彼がメンテナンスやトラブル対策を全てやってくれるかと言うと、対応が非常に遅いので問題である。
 この点は私の前任者から続いている問題で、学科長も知っているのだが、一向に改善しない。おそらく、ジャマイカ人の社会としては許容される問題なのであろう。


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